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Column / Insights

AI活用の考え方AIセキュリティ読了目安 約12分

AIに社内データを読ませる前に、企業が設計すべきこと——AI基盤の権限・データ・運用設計

生成AIに社内データを読ませる前に必要なのは、権限・データ分類・運用の設計です。「人間が見られる情報」と「AIに読ませてよい情報」を分けて考える二層設計から、リクエスト分類・Human in the loop・ログ監査まで、企業AI基盤の設計思想をAWSの知見を手がかりに解説します。

AIに社内データを読ませる前に、企業が設計すべきこと——社内データがデータガバナンス・権限管理の層を経てAI活用につながる図解

生成AIの性能は日々上がっています。文章作成や要約だけでなく、コード解析、セキュリティ調査、業務判断の支援、社内情報の横断検索まで、かなり高度なことができるようになってきました。

一方で、モデルの能力が高くなるほど、単純に「便利だから使おう」では済まなくなります。特に企業でAIを使う場合、重要なのはモデルの性能だけではありません。誰が、どのデータに、どのAIで、どこまでの操作をしてよいのか。この設計がないままAIを導入すると、便利さと引き換えに、情報漏えい・権限超過・誤判断・悪用リスクを抱えることになります。

この点について考えるうえで、AWSの「Safely Releasing Frontier Models to Customers」という記事がとても参考になります。この記事では、Amazon Bedrock上で高性能なフロンティアモデルを安全に顧客へ提供するための考え方が説明されています。AWSは、最新モデルを早く提供するだけでなく、セキュリティ、プライバシー、悪用防止、ガードレールを含めて提供する必要があると述べています。

フロンティアモデルは「高性能な道具」であると同時に「強い権限」でもある

AWSの記事で特に重要なのは、最新のフロンティアモデルには、サイバーセキュリティ領域で強力な能力があると指摘している点です。防御側にとっては、脆弱性調査やセキュリティ強化に役立つ可能性があります。一方で、攻撃者にとっても高度な能力を得る手段になり得ます。

これは、企業のAI活用にもそのまま当てはまります。

AIは単なる検索ツールではありません。AIは、情報を読むだけでなく、要約し、抽出し、組み合わせ、推論し、場合によっては操作まで実行できます。つまり、AIに社内データを渡すということは、単に「閲覧権限を与える」というよりも、情報を再構成する能力を与えることに近いです。

たとえば、人間がDrive上で複数の文書を見られるとしても、普通は全部を横断的に読んで、関係性を整理し、要点をまとめることは簡単ではありません。しかしAIはそれができます。ここに、AIならではのリスクがあります。

AI導入でまず考えるべきこと

企業AI基盤を設計するとき、最初に考えるべきことは「どのモデルを使うか」ではありません。先に決めるべきなのは、次のような設計です。

  • どのデータをAI利用対象にするか/対象外にするか
  • 誰の権限でAIがデータを見るのか
  • 個人情報や機密情報はどう扱うのか
  • 危険な依頼や操作をどう止めるのか
  • AIが出した結果を誰が確認するのか
  • ログや監査をどう残すのか

つまり、AI基盤に必要なのは、LLMを呼び出す処理だけではありません。必要なのは、AIに渡す前後の制御設計です。イメージとしては、次のような構成です。

ユーザー
    ↓
  認証・権限確認
    ↓
  データ分類
    ↓
  リクエスト分類
    ↓
  ポリシー判定
    ↓
  モデル選択・ツール制御
    ↓
  LLM実行
    ↓
  出力チェック
    ↓
  ログ・監査・人間レビュー

LLMを直接呼ぶのではなく、その前に「AI Gateway」や「Policy Layer」のような層を置くことが重要です。

Driveの権限をAIに委譲する設計はわかりやすい

社内AIでよく出てくるのが、Google DriveやSharePointなどのストレージにある文書をAIに参照させる設計です。このとき、最もわかりやすい考え方は、

人間が見られるものだけを、AIも見られる

という設計です。たとえば、営業部の人は営業部のフォルダだけ見られる。人事フォルダは見られない。その場合、AIも営業部の人に対しては営業部の情報だけを参照し、人事情報は参照しない。

これは非常に説明しやすいです。「AIは、あなたのDrive権限を超えて情報を見ません」と言い切れる。この設計は、企業AI基盤の初期方針としてかなり自然です。

GoogleのGemini Enterpriseでも、企業データに対する検索やアシスタント機能について、権限を考慮したアクセス、つまり permission-aware access を提供すると説明されています。Gemini Enterpriseは、Google WorkspaceやSharePoint、ServiceNowなどのデータソースに接続し、ユーザーがアクセスできる範囲に応じて企業情報を検索・活用するためのプラットフォームです。

つまり、既存のストレージ権限をAIの参照範囲に使うという考え方は、かなり自然な方向性です。ただし、これだけでは不十分です。

「Driveで見られる」ことと「AIに読ませてよい」ことは違う

ここが一番重要です。Drive上で閲覧権限があることと、AIに処理させてよいことは同じではありません。

たとえば、社長や人事担当者は、給与情報、履歴書、評価情報、労務情報をDriveで見られるかもしれません。しかし、それをAIに自由に読ませてよいかというと、別問題です。人間が必要に応じて見ることと、AIが横断的に検索・要約・抽出できることには大きな差があります。

そのため、実務上は次のような二層構造で考えるのが安全です。

第1層:Driveの閲覧権限誰がそのファイルを見られるか
第2層:AI利用区分そのファイルをAI処理に使ってよいか

つまり、AIが参照できる条件はこうです。

ユーザーがDrive上で閲覧権限を持っている

かつ、そのファイルやフォルダがAI利用OKである

Drive権限は必要条件ですが、それだけで十分条件にしない方がよいです。

AI利用区分を設計する

企業AI基盤では、データをざっくり次のように分類するとわかりやすいです。

AI-USEAI利用してよい情報
AI-LIMITED条件付きでAI利用してよい情報
AI-NOAI利用してはいけない情報

たとえば、以下のようなイメージです。

10_AI-USE_社内マニュアル
  20_AI-USE_会議議事録
  30_AI-USE_営業ナレッジ

  70_AI-LIMITED_顧客別資料
  80_AI-LIMITED_契約関連

  90_AI-NO_人事労務
  91_AI-NO_個人情報
  99_AI-NO_認証情報

初期運用では、フォルダ名にAI利用区分を入れるだけでも、社内の意識づけとしては有効です。ただし注意点があります。

Gemini標準機能では、フォルダ名だけでAI権限管理はできない

Google WorkspaceのGeminiのように、既存のWorkspaceデータへ標準機能としてアクセスするAIを使う場合、フォルダ名だけでAI権限を制御することは基本的にできません。フォルダ名に AI-NO と書いても、Geminiがそれを自動的に「AI利用禁止」と解釈してくれるわけではありません。

Gemini Enterpriseでは、データソースのアクセス制御や、文書レベルのアクセス制御を設定できる仕組みがあります。カスタムコネクタでもACLやIDマッピングにより、ユーザーが見られるコンテンツを制限する設計が説明されています。ただし、ここでいうアクセス制御は基本的に「そのユーザーが、その文書にアクセスできるか」の話です。

一方で、私たちが企業AI基盤で考えたいのは、

そのユーザーは、人間として文書を見てよい

でも、AIに処理させてよいかは別

という制御です。これは通常の閲覧権限とは別の問題です。たとえば、

  • 人事担当者は履歴書を見られる。でもAIに履歴書を自由に要約させたくない
  • 社長は給与情報を見られる。でもAIに全社員の給与傾向をまとめさせたくない

というケースです。このような制御をしたい場合、Gemini標準機能だけでは限界があります。

自作AI基盤なら、より細かく制御できる

一方で、自作RAGや自作AIアプリを作る場合は、フォルダ名やメタ情報をもとにAI利用可否を判定できます。たとえば、「ユーザーがDriveで閲覧可能、かつフォルダがAI-USE」のときだけAIに渡す、という制御ができます。さらに、次のようなルールも実装できます。

  • AI-LIMITEDの場合は、マスキング後のみ利用可能
  • AI-NOの場合は、検索対象から除外
  • 個人情報を検出した場合は、人間承認が必要

この違いはかなり重要です。

Gemini標準機能Drive権限をそのまま使う設計に近い
自作AI基盤Drive権限 + AI利用区分 + リクエスト種別で制御できる

つまり、通常の社内ナレッジ検索であればGemini標準機能でも十分な場合があります。一方で、個人情報、契約、顧客情報、人事労務、セキュリティ情報などを扱うなら、自作AI基盤やAI Gatewayのような制御層を用意した方が安全です。

Gemini Enterprise Agent Platformはどこで効いてくるか

ここで、Gemini Enterprise Agent Platformのような基盤が選択肢になります。

Gemini Enterprise Agent Platformは、企業向けにAIエージェントを構築・運用するためのプラットフォームです。Googleの説明では、エージェントの開発・デプロイ・管理に加えて、セキュリティやガバナンスの仕組みを持ち、Agent Identityによってエージェントに細かな権限を付与できるとされています。Agent Identityでは、エージェントがMCPサーバー、クラウドリソース、エンドポイント、他のエージェントに対して、自分自身の資格情報、またはエンドユーザーの代理として安全に認証できると説明されています。

これは、自作AI基盤を作るうえではかなり重要です。なぜなら、企業AIエージェントでやりたいことは、単に「AIに質問する」ことではなく、ユーザーの権限を前提に、必要な社内データを参照し、必要な業務ツールを呼び出し、必要に応じて下書きや操作案を作ることだからです。

たとえば、営業担当向けエージェントなら、

  • 自分が見られる営業資料だけ検索する
  • 担当顧客の過去議事録を要約する
  • メール返信案を作る
  • 送信は人間が承認する

という動きが必要になります。管理部向けエージェントなら、

  • 契約資料を検索する
  • 更新期限を抽出する
  • 気になる条項をリストアップする
  • 最終判断は人間が行う

という設計になります。このように、ユーザーの代理としてエージェントが動くための土台として、Gemini Enterprise Agent Platformのような仕組みは相性が良いです。

ただし、ここでも注意が必要です。Gemini Enterprise Agent Platformを使えば、エージェントのID、認証、接続、運用、監査の土台は作りやすくなります。Agent PlatformにはIAMによるアクセス制御や、Agent Gateway、Model Armorなどによる実行時のポリシー適用・脅威対策の考え方も示されています。しかし、「このファイルはAI-USEか」「この依頼は個人情報処理か」「この出力は外部送信してよいか」「この操作には人間承認が必要か」といった業務ポリシーは、自社側で設計する必要があります。

つまり、次のように考えるのがよいと思います。

Gemini Enterprise Agent Platformエージェントを安全に動かすための基盤
AI Gateway / Policy Layerそのエージェントに何を許すかを決める自社ルール

リクエスト自体も分類する必要がある

AIに渡すデータだけでなく、ユーザーの依頼内容も分類する必要があります。同じファイルを扱う場合でも、依頼内容によってリスクは変わります。

たとえば、顧客資料に対して「この資料を3行で要約して」は比較的低リスクです。一方で「この契約で相手に不利な点を洗い出して」は、法務判断に近い内容になります。さらに「この内容で顧客にメール送って」となると、外部送信を伴うためリスクが上がります。

そのため、AI基盤ではリクエストを次のように分類するのがよいです。

リクエスト種別
通常業務要約、文章作成、社内FAQ
機密あり顧客資料、契約、見積、営業情報
個人情報あり履歴書、給与、労務、医療、本人確認書類
サイバー・セキュリティ系脆弱性調査、攻撃コード、認証回避
外部送信メール送信、Slack投稿、顧客回答
破壊的操作削除、上書き、権限変更

この分類に応じて、使うモデル、渡すデータ、許可する操作、人間承認の有無を変えます。

AWSの記事でも、高度なモデルを安全に提供するうえで、ガードレールやフォールバックの考え方が示されています。これは企業AI基盤でも応用できます。重要なのは、危険な依頼を単純に「許可する/拒否する」だけでなく、より安全な経路へルーティングすることです。

モデルは用途ごとに使い分ける

高性能なモデルを、すべての用途に使う必要はありません。むしろ、強いモデルほど、できることも増えるため、リスクも上がります。そのため、用途ごとにモデルを分ける設計が現実的です。

用途方針
通常の要約・文章作成標準モデル
社内ナレッジ検索出典表示つきRAG
機密文書の要約ログ保存 + 出力チェックあり
個人情報を含む文書マスキング後にLLMへ渡す
サイバー・セキュリティ系専用ポリシー + 出力制限 + 管理者レビュー
外部送信や削除AIは下書きまで、人間が承認

大事なのは、「一番強いモデルを全員に使わせる」ことではありません。タスクのリスクに応じて、モデルと権限を切り替えることです。

Human in the loopは必須になる

AIエージェント化が進むと、AIは単に回答するだけでなく、メール送信、カレンダー登録、ファイル整理、CRM更新、権限変更などの操作を行うようになります。このとき、すべてをAIに直接実行させるのは危険です。

特に以下の操作は、人間承認を挟むべきです。

  • メール送信・顧客への回答
  • 契約書の修正
  • Drive共有権限の変更
  • ファイル削除
  • 人事・労務判断
  • セキュリティ対応
  • 外部公開

エージェントのツールは、次の3段階に分けると整理しやすいです。

Read tool読むだけ。比較的安全。
Draft tool下書きや提案まで。中リスク。
Action tool送信、削除、更新、共有など。高リスク。

最初からAction toolを全面開放するのではなく、まずはRead toolとDraft toolから始めるのが安全です。AIは「実行者」ではなく、最初は「補助者」「下書き作成者」「整理役」として設計する方が現実的です。

ログと監査も設計に含める

AI基盤では、ログも重要です。最低限、以下のような情報を残す必要があります。

  • 誰が、いつ使ったか
  • どのデータを参照したか
  • どのモデルを使ったか
  • どのようなリクエスト種別だったか
  • ガードレールが発動したか
  • 出力は外部送信されたか
  • 人間承認があったか

ただし、ログに本文や個人情報をそのまま残しすぎると、ログ自体がリスクになります。そのため、ログは「全文保存」ではなく、

誰が、どの文書を、どの目的で、どのAI処理に使ったか

を追跡できる形にするのがよいです。

Gemini Enterprise Agent Platformのような基盤を使う場合でも、Cloud Loggingや監視の仕組みは活用できますが、何を監査対象にするか、どのログを残すか、どの操作を承認制にするかは、業務側の設計として決める必要があります。

設計思想として大事なこと

AWSの記事から学べることは、単に「ガードレールを入れよう」という話ではありません。より本質的には、高性能AIは、公開・利用・運用の設計とセットで考える必要があるということです。企業AI基盤でも同じです。

AIを便利に使うためには、AIに何でも読ませるのではなく、AIに読ませてよいものだけを流す設計が必要です。AIに何でも実行させるのではなく、AIは提案し、人間が承認する設計から始めるべきです。高性能モデルを一律に使うのではなく、データの機密度、ユーザー権限、リクエスト種別に応じて、モデルや操作権限を切り替える必要があります。

整理すると、企業AI基盤に必要な設計思想は次の3つです。

  • 1. 人間の権限を超えてAIに見せない
  • 2. 人間が見られる情報でも、AI利用してよいかは別に判定する
  • 3. AIが出す回答や実行する操作は、リスクに応じて制限・承認・監査する

まとめ

生成AIの導入は、単にChatGPTやGeminiを社内で使えるようにすることではありません。本当に重要なのは、AIを業務に組み込む前に、データ・権限・操作・ログ・承認の設計をすることです。

特に、社内DriveやGoogle WorkspaceとAIを連携させる場合は、次の考え方が重要になります。

AIは、ユーザー本人が見られる文書のうち、AI利用が許可された文書だけを参照できる。

そして、Gemini標準機能のようにWorkspace権限をそのまま継承する仕組みを使う場合は、「Driveで見えるものは、AIにも見える可能性がある」という前提でフォルダ設計や共有権限を考える必要があります。一方で、「人間は見られるが、AIには読ませたくない」という要件があるなら、自作RAGやAI Gatewayのような制御層が必要になります。

Gemini Enterprise Agent Platformのような基盤は、ユーザーの代理として動くエージェントを作るうえで有力な選択肢です。エージェントのID、認証、接続、管理、監査の土台を用意しやすくなります。ただし、それだけで企業ごとのAI利用ルールが完成するわけではありません。必要なのは、プラットフォームの権限管理に加えて、自社の業務ルールを反映したPolicy Layerです。

AIの安全性は、モデル単体では完結しません。モデル、ストレージ権限、データ分類、ガードレール、ログ、Human in the loopを含めて設計すること。これが、これからの企業AI基盤に必要な考え方だと思います。

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